アジャニの復讐を通してテーロスブロックに思いを馳せる
http://mtg-jp.com/reading/translated/ur/0010840/

テーロスブロックで「エルズペスの戦い」を手助けしたアジャニさんは、
ヘリオッドに復讐するため、テーロスの神々の力の源である、
人々の信仰心を奪うための旅を始めるそうです。

いわく、長い間戦いを避けてきたアジャニにとって、
それは久しぶりの「自分自身のための戦い」であると。


*


いやー熱いですね。さすが主人公アジャニ。
こうして見るとテーロスブロックはストーリーはよくできてたんですよね。
「見出されることで存在する」という神々の性質はまさに星座と呼ぶに相応しいものですし、世界観も結構よくできてる。
でもこの1年間スタンダードをやってテーロス(入りのデッキ)がフレーバーに満ちていると感じた人はあまりいなかったでしょうね。

このへんはイニストラードと比べるとかなり興味深い。
結局MTGはゲームプレイ時にストーリーが語られることはないので、
フレーバーと呼ばれるものを感じさせるためには複雑な手続きが必要になります。
さあ、話長くなるよ!


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・表現すべき内容は明確か
まず最初のステップ。
実はテーロスブロックはここでちょっと躓いていたんじゃないかと思います。
トップダウンで表現するものはギリシア英雄譚の諸要素なのか、
それともその類型をなぞった、エルズペスが綴るひとつの物語なのか?
ここをしっかり決めないと、当然カードに落とし込むべき要素を明確にできません。
自分は『テーロス』で表現されている内容は前者、
『神々の軍勢』『ニクスへの旅』では後者だと考えています。


・表現すべき内容が、ゲーム効果に適切に落とし込まれているか
ここに関してはWotCがやったことは
①主要登場人物を神話レアとして出す
②神の力である「信心」をパーマネントから換算する
③「エンチャント」というカードタイプを拡大解釈し、《神性》の物的特徴とする
④(主に)そのエンチャントの祝福を受けた英雄を表現する「英雄的」
⑤そのエンチャント同士が相互作用する「星座」
⑥英雄が対峙する怪物が持つ「怪物化」

くらいにまとめられますかね。貢納?知らない子ですね。

メカニズムそのものを見る限りでは、
基本的にはほぼ完璧にやってるんじゃないかと思います(強いかどうかは別)。
というか次の項目と結びつくので、ここ単体で問題にすることはできません。


・プレイヤーは、そのゲーム効果から「表現された内容」を読み取れるか
で、ここが最大の問題じゃないですかね。
イニストラードブロックの「人間集めてツエー!」も「ゾンビ蘇る!」も「狼男が変身!」も、
それ単体がわかりやすいネタだったのでそれ単体で楽しむことができました。

でもテーロスの世界観でそれと同等に事前説明が不要な要素は
上記の⑥、「怪物化すると実際怪物」くらいでした。
④⑤も分かりやすいと言えば分かりやすいですが、
オーラビートもエンチャントレスもデッキの挙動としては既存であり、
この動きをしても「メカニズムのおかげ!」とは感じづらいんですよね・・・・・・

重要なのは②と③。
ストーリーの中心であった神やニクスという概念、
および信心やエンチャントというメカニズムはどちらもMTGオリジナルの要素です。
それをMTGオリジナルのメカニズムで説明しているので、当然まず普通は伝わりません。
C言語をロシア語で説明してくれている状態と言えばわかりやすいでしょう。
しかも「信心メカニズム(パーマネントのマナシンボルを数える)」も「エンチャントへの注目」も、MTGの長い歴史であんまりされてこなかったことです。

これをユーザーが理解するためには、まず
世界観を理解
→メカニズムを理解
→世界観とメカニズムの結びつきを頭で理解
→カードを使って勝ったり負けたりして心で理解

という四段階を踏む必要があります。数カ月で容易に達成できるものではありません。


・上記の「フレーバーを持つゲーム効果」が環境に遍在しているか
とはいえ、エンチャント=神という概念を作った結果、『ニクスへの旅』では
ルールテキストだけでストーリー上の重要性を感じさせるカードができました。
神送りと神討ちですね。このへんはWotCさすがのワザマエです。

ですが両方ともレア以上なのでドラフトではもちろんのこと、
構築でもなかなかその姿を見かけることはありませんでした。
というかMTGは5色を自由に組み合わるゲームなので、
同じ色のカード二枚だけで全プレイヤーに物語を感じさせるのは無理があります。

この点はテーロス発売直後の方が成功していたように感じられます。
波使い、ニクソス、タッサ、嵐の息吹のドラゴン、モーギスの信奉者など、
環境初期ならではの
「テーロスの世界にいるらしい、なんかよく分からないけどすごい連中」
が、新しい次元の存在感、その摂理を示していました。
強カード→そのメカニズム→テーロス、という導線ですね。
どのカードも一撃必殺の威力があるというのも、
テーロスをすごいところに見せるのに一役買っていたように思えます。

しかしプレイヤーは次第にそれらの存在には慣れていくもので、
続く『神々の軍勢』『ニクスへの旅』には良カードは数あれど、
こういった「テーロス次元を感じさせる」ものの追加が不足していたように見えます。
数少ない例である神送りや神討ちもストーリーの「欠片」であるだけで、
それがストーリーの駆動装置になるかは別の問題になりますが・・・・・・


・その「フレーバー的ゲーム効果を持つカード」が欲しくなるか、使いたくなるか
前の点とも重なりますが最後のポイント。
この問いはほぼ「=そのブロックが魅力的に見えるか」ですね。

神話レアの位置に、強力(とわかる)、テーロスらしい(とわかる)カードがあるか?
それ以外のいくつものカードでテーロスへ続く道をしっかりと作れているか?
これらのカードが入ったスタンダード環境は、見たこともない怪物と神々の祝福を受けた英雄との戦いを、あるいは神々の世界ニクスを、そしてそこを進むエルズペスの受難の道を想起させるか?

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以上を全て満たして初めて、ゲームデザインが成功したことになるのだと思います。
そうでないと「シナリオは頑張ってたけど、なんか印象薄かった」となってしまう。
割に合わない仕事ですよね。


*


アジャニについて書き始めたらおもっくそ長文になってしまった。
メカニズムそのものや環境への影響についてはまたいつか。

P4U2マリーちゃんの動画。
http://dengekionline.com/elem/000/000/891/891455/
アレ、一撃必殺技が結構適当な感じ・・・?

コメント

Taiga
2014年7月25日0:52

興味深いですよ

黒単番長
黒単番長
2014年7月25日1:18

面白かったです
これからアジャニは何をするのでしょうかね
ネガティブキャンペーンでしょうか

タカハシケイ
2014年7月25日1:29

面白い記事でした。
②はむしろわかりやすく感じました。元になったイーヴンタイドの彩色から、パーマネントに限定してカウントするようになり、パーマネント=その神を信仰する人々ってことで、集まれば集まるほど信仰心が強くなって具現化するっていうのは、うまいこと出来てるなあと思います。

あと、ニクスへの旅でエンチャントを並べていく能力語が星座と名付けられたのはフレーバー的に結構衝撃的でした。すごくうまい名前だと。
神々の世界の生き物を並べていく→神々の世界からの贈り物=夜空を構成する星→星が連なって星座になる
これに魅力を感じて、ニクス発売直後から構築でも星座デッキを作っていました。

とりあえずフレーバー的には今まででかなり成功したセットなのではないかなという印象を持っています。(一方ゲームでは、授与ベタ張り戦術でクソ環境と化したリミテッドが造られてしまったのは大きな失敗だったのではとも思いました)

戦略カナルベイ
2014年7月25日2:41

>松屋さん
あざっす。そして言わせた感満載ですみません。

>askaさん
ありがとうございます。
アジャニがやってるの、ネガキャンですよね。ヘリオッド炎上しかけてますよね。

>タカハシイタオさん
ありがとうございます。
②については、やはり「ゾンビや狼男など、既知のカッコイイ・前から使いたかったものをMTGのメカニズムを通して使えるようになる」わかりやすさと「神々という未知の概念をMTGのメカニズムを通して上手く説明する」わかりやすさは質的に異なるもので、ゲームの楽しさである前者を実現する準備としての後者に留まってしまっている印象があります。

「俺は特定の色にすべてを捧げるぜ!」という願望を叶える信心は非常に良いメカニズムだと思いますが、それを「神々」に結びつける方法が意外と少ない、というのが自分の違和感の正体なのかもしれません(神の顕現以外には波使いやモーギスの狂信者、ニクソスがありますが、波使いや狂信者は「神」と若干隔たりがありますし、ニクソスはマナの用途の多くが「神」ではない&デッキ色を問わず使われている)

「星座」は星=生命を並べるという意味においても、自分が本文にちょこっと書いた、人の認識を受けて(何の意味もない光の配列から星座が見出されるように)生まれたニクスの生物がさらに多くの人々の認識=信仰を得て神々となる、という由来を感じさせる点においても秀逸なネーミングだと思います。
本文に書き忘れましたが、エンチャント生物を並べると通常生物との枠の違いが異世界感を生み出す、というのはこのブロックならではの魅力ですね。

テーロスブロックは仰る通り「フレーバーを表現するデザイン」には成功したものの、それをゲーム中に「味わえる」ところまで消化できているかというと判断を保留せざるを得ない、それだけにすごく惜しく感じてこんな文章を書いてしまいました、というのが自分の今のところの考えです。あと一年スタンダードにいるのでどうなるかわからないですけどね。

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